Epilogue -- 芥 --

 

 ……どのくらい時間が経ったのか、解らない。

 

 何があったのか、もう覚えていない。

 今、自分は何処にいるのか……そんな事など、知らない。

 


 いつか白い夕日を見た。
 あれはいつだったのだろう。


(違う……あの場所じゃない)

 

 

 自分のいるべき所は。白に囲まれた場所じゃない。

 

 

(じゃあ何処なんだ?俺が……俺は、誰……)

 

 

 ふわり、と周囲が揺れた。天と地が、くるりと回ったような気がする。

 だが、何も衝撃は無い。

 

 此処は……きっと水の中。羊水の記憶。

 

 生命は、海からやってきた。

 

 

『……お母さんは、いつでも芥を応援してるから……』

 

 

 今も、これからも。永遠に。


『……「見えざるものの意思」すら感じる場合も多々あります。“大いなる存在”などと呼ばれるものですが、我々はそれらに畏怖の念を抱きます』

 

 

 大いなる存在……誰かが言っていた。

 それは海よりももっと遙かな昔……。

 

 

『説明が途中だったわね。ヴァルカン・リングは、ある仮説の天体。太陽にとても近い軌道を取るとされた、未観測の塵の集合体。
 それが発見されたら色んな謎が解けるとされていたけれど、結局今まで見つかってない。だから「私たちには見えない」。私たちにとって、あの方はそれくらい近くて遠い存在だったの』

 

 

(ヴァルカン……)

 

 

『そう、火の神の名前。よく知ってるじゃない』

 

 

 赤く燃える……西の空へ沈んでいく、大きな夕日……。

 

 

『俺達は己が信じるものに賭ける。それは芥、君だ』

 

 

 攻撃を受け炎上する機体……彼等の強さは、燃えさかる炎のようで。

 

 

『アイツは『何があっても必ず戻る』と言って出て行ったんだ』

 

 

 必ず戻る……仁は敬の事を信じていた。

 

 信じる心は、時空を超えるのかもしれない。

 

 

『貴方も、いずれ元の世界に戻るんですね』

 

 

 そうだ、必ず戻ると決めた。自分のいるべき場所へ。

 

 

『彼等を信じるの』

 

『死ぬな、芥!』

 

『芥さん』

「あくたっ!!」

 

 

 自分を呼ぶ声が重なった。

 

 

(なに……)

 

 

 急激に蘇る、落下の感覚。電撃のようなショックが全身を走り抜ける。

 

 

「……っは!」

 

 

 酸素を求めて芥は喘いだ。

 

 

「芥!あくた!気がついたの?!」

 

 

 ……懐かしい声。

 

 

「芥、私よ!わかる?」

 

「そんな大声出しちゃ駄目よ、彩。芥クン、大怪我してるんだから」

 

 

(さ、い……?)

 

 

 うっすらと目を開けば、視界に映る懐かしい顔。今は涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 

 

(……戻れたんだ)

 

 

 間違い無い。今度こそ、自分は元の世界に戻ってきた。

 知らず、涙があふれ出る。

 

 

「芥?傷が痛いの?ねえ、大丈夫?」

 

「先生呼ぶからね、芥クン。少しの辛抱よ」

 

 

 彩の声と、パタパタと走り去る彼女の母親の足音。それら全てが、今は何よりも愛おしく大切に感じられる。

 

 

「芥……」

 

 

 再び名前を呼ばれ、そっと触れられた手をやっとの事で握り返せば、彼女の声が少し明るくなった。

 

 

「良かった。芥……戻って来てくれて、ありがとう……」

 

 

 ありがとう。

 自分に関わり、自分の事を心配し、信じてくれた、全ての人に。

 そして、世界で一番愛おしい目の前の人に。

 

 

(……ありがとう)

 

 

 目を閉じ、心の中でそっと感謝の言葉を呟く。

 

 そして彼は、異世界で出会った人々からの祝福の言葉を聞いた気がした。

 

 

------Real Border_了------

 

 

20111021-20190309