ぽつぽつと、独り言。
月にはウサギがいるなんて
遠い昔のおとぎ話
平凡な岩の塊
そんな月にも
夢はあったのかもしれない
だだっ広い宇宙を飛び回りたいという
果てのない夢が
けれども月は
地球の引力に自由を奪われ
地球も太陽に自由を奪われ
それでも宇宙の法則に従っている
月にも夢があったのかもしれない
けれどもそんな素振りは微塵も見せず
ただひたすらに あの天空で
のんびりと楕円軌道を描いてるんだ
彼はどこまで行くのだろう
その髪を靡かせ
決して振り返らない
彼はどこまでも突き進む
光溢れる丘を
太陽に向かって
黄金の輝きが彼の輪郭を切り取り
その存在を包み込んでいく
栄光と祝福に包まれ
だがそれに奢る事無く
気付く素振りも無いままに
彼が目指す場所は何処なのだろう
誰も知らない
此の世界ではない 何処か
恒河沙(ごうがしゃ)。
遙か彼方の更に向こう。
不意に湧き上がった 強い怒り
僕は何故 囚われたのだろう
季節を無視した暑さだった あの日
心の隙間に
悪魔が するりと滑り込むように
瞬きする間すら無かった
一瞬の罠
唐突に
僕を取り囲むビルも木々も
傍らを駆け抜ける子供達も
ぬるい風も木漏れ日も川の潺も
そして僕自身も
みんな消え去れば良いと思った
あの感覚
破壊衝動
あの時 あの場所で
僕がもしも一人でいたなら
「それ」は確かに遂行されただろう
紙一重のバランス
現実の足場が崩れる直前
僕を救ってくれた『何か』
それから あの悪魔は顔を出さない
だけど 今も
心の奥深くに
息を潜めて留まっているのを
僕は知っている
だからこそ忘れてはいけない
「それ」を意識から消すべきではない
あれは警告
そのおかげで僕は今 笑って生きている
May,2009.